種子と惑星
藤 一也
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宇宙は一つの記号である しかも象徴的な 閉ざされた記号である 夢の内面性に漂う 浮遊する 澱 あるいはLamp なのだ ゼロから無限へと 発出する 「種子と惑星」の 恰も一つの物体が 見えない 原子や分子の集合体であるように あなたは 倦むことなく しかも執拗に その微視的な記述を続ける 慎重に 熟慮しながら 未知の存在物を そこにとらえ 表現するために 自らの欠如を満たす行為を続ける 数が しばしば 絶対的な理念の表象として 常にぼくらの 傍らにあったように
そして ぼくが「虚の自画像」の あなたの <海の外側に沿って> 歩き始めた時
ぼくはそこに一つの垂鉛を置いた 矛盾と対立の 座標軸の中で いつも逸脱してしまう 自らの知性を 異次元の本質的世界へと かえすために 「種子と惑星」のミンコフスキー的空間を 時に軍事技術者が 営々と築き上げた 延々と 果てしもなく続く土塁のように 単調にしかも堅牢で 微分的な荒野を そこに架橋する 自らの肉体を Pとか Oとか Dという 記号や文字に 解体し 濫用しながら 倦むこともなく 非連続と連続の鎖を バリアー(障害物)のように そこに置く
そのようにして あなたは「種子と惑星」の生命の全体像を とらえようとする あるいは用意周到なリズムにのった 覆面の 数学的思考者か 想起者のように 無限の闇の空間に遊ぶ 喩の魔術者 となる 打撃と破砕の 生命の進化の流れの中で 「種子と惑星」の生成流転する 虚空のなかの あなたは時間の 夥しい消費者となって行く
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ひとつの華麗な 暗の遊技が ぼくらの限りない祝祭を 約束するように ぼくらは憂鬱と寓意の間で 一つの迷路を辿りながら 恰も迷路そのもののように 言語と論理の思考を弄びながら 虚空のなかの黒い唐草模様の中で 呪術者のように cardをめくってみる ブロッケン山の魔女の唱える 洞窟のなかの 九九のように 未知の意味をつくり出す 「種子と惑星」の扉の向こうに ひとつの 暗黒の星雲か ブラックホールのような 暗黒の空洞の世界 を つくるために
そして ぼくらの見えない宇宙の 干満の潮が 抽象的な波紋をその表面に 残して行くように ぼくらはひそかに 宇宙の偽書 を書いて行くのだ
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Laplaceの魔術師よ 沈殿し 堆積し 浚渫し 発光して行く ぼくらの暗い運河の中で 語りかけてくるものは 何もない が ぼくらは丹念に その空間の煌き や 渦巻きや 意味もない夥しい落書を 書きとめて行く 時に神話的な要素をもって 宇宙の棘 か ガラスの 危機的な破片か 切面のように あるいは自ら発光する 奥深い内部の 暗いリン系物質のように
だが ここでは超えゆくものが 計算できない 塵か一つの終局(カタストロフィ)的な 保留か 信号のように
「種子と惑星」の中の 無言の沈黙よ そして無限の沈黙よ 存在そのものの 有限と拡大の <始源・基底・基準・要素・根本> の プリンキピアの世界の中で
宇宙は 一つの抽象的な 論理的な帰結も 不合理な推論もゆるさない 美しい暗黒の夢の記号学なのだ あるいは それとも 冗舌と豊饒にみちた祝祭 かも知れない
暗黒の 無限の 宇宙の
沈黙の中で
イル・フィオーレにて
--------Requiem集より
(ふじかずや・詩人・評論家)